【3】マッターホルン ヘルンリ稜 2019.08.10-2019.08.20

CL:斉藤/記録:馬場/同行:伊藤

2019.08.15 ツェルマット

我々の9ヶ月に及ぶマッターホルンは終わった。自分の健康や、父親の危篤。その他、様々な環境でスイスに行けるかどうか分からない時期からマッターホルンを視野に入れたトレーニングを始めた。

それも、もう終わり。

クライマー達が去った静かなダイニングで遅い朝食をとる。24時間以上起きているのに眠気がない。興奮しているのだろう。皆に馬場さんは元気だと言われる所以が理解できた。

珈琲を飲んで少し落ち着いたらやっと眠気がきて、ゴールデンマッターホルンが見えたら起こしてねと伊藤に頼んでから仮眠した。

1時間ほど寝た後、朝陽に照らされ金色に輝くマッターホルンにやっと出会えた。

怪我も事故もなく、無事にやり遂げた。自分達のアルパインが終わったと実感した時だった。

 同じ時間を共有したスペインパーティ

ヘルンリヒュッテのチェックアウトは8時。パッキングをして、珈琲を飲んだり写真を撮ったり、いつまでも名残惜しい場所にサヨナラを告げ、ヘルンリヒュッテを後にした。

何度も何度でもマッターホルンを振り返りハイキング下山を楽しむ。

シュバルツゼー湖のチャペルで我々の安全の感謝の気持ちを捧げ、ゴンドラに乗りツェルマットへ戻った。

初日とは別のホテルBase Campにチェックイン。ホテルシーマでデポしてあった荷物をピックアプしてから、マッターホルンゆかりのRestaurant Whymperにてサミットを踏めなくても我々は祝杯をあげた。

皆と別れて一人で街中徘徊してからホテルへ帰り、斉藤と寝酒しつつ翌日からの予定を3人で考える。明日からはホテルすらノープランだ。

伊藤がミューレンに朝夕食つきのお値段お手頃ホテルがあると言うので、全員YESとの言質を取ったうえでそこに予約を入れ、落ち着いて眠りにつくことができた。これが、まさかの大失態になろうとは夢にも出てこないぐらい疲れきった3人はバタンキューと眠りに落ちた。

 

2019.08.16 ミューレン

ホテルの朝食をゆっくり食べて、お腹いっぱいになってからツェルマットの駅にむかった。途中のマッターホルンビューの日本人橋で記念撮影。空高くそびえるマッターホルンがくっきりと見えて気分も清々しい。心晴れ晴れと電車にのり、ミューレンまでの長い乗り換え大量の乗り鉄観光!

ツェルマットを去る車窓からマッターホルンから連なる山並みが見えたと思ったら急に雨が降ってきた。ひとつのサミットに対して長かった想いが溢れでた。

グーグルマップを頼りによく分からない場所と電車を乗り継いで、やっと人里離れたミューレンまで来た。目の前にはユングフラウ三山がそびえ、美しい景観に息を飲む。

 左奥からアイガー、メンヒ、ユウングフラウがてっぺんだけ

さぁ、ホテルはどこ?

え?

どこ?

グーグルマップを見るとホテルは山の反対側のグリンデルワルトの山奥ではないか!

ちゃんと最後まで詰めて確認しなかったことを悔やむより、現状を楽しみつつリカバリーすることが先決!と、まずは落ち着いてロシティとマルゲリータを注文し、息を飲むよりもビールを呑む。

トラブルは旅の醍醐味!笑笑

全員がそこでいいと言ったのだから仕方ない。

スーツケースではないとは言え、この荷物を背負って山小屋まで登るのは酷だ!ミューレンで遊ぶことに切り替えてホテルを探すと三つ星ホテルAlpenruhのマウンテンビューを確保できた。窓の外に目を向けるとアイガー、メンヒ、ユングフラウがこちらを向いている。

早速、ミューレン街中散策。小さくとも上品で昔の隠れ家的リゾート地の軽井沢って感じなのだろうか?ホテルでオススメされたマウンテンビューのレストランBlumentalでディナー。スイスにきて初めての赤ワインが喉の奥の方まで染み渡る。

 

2019.08.17 シルトホルン・ユングフラウ

ホテルの朝食をシルトホルン山頂360度一周する回転展望レストラングロリアにチェンジしてもらう。歩かず登らず標高2970mでビュッフェが楽しめるなんて、スイスはどうなっているのだ?日本とスケールがちがう。

  

ロープウエイを乗り継いであっという間に「女王陛下の007」ロケ地ピッツグロリアに到着。ビュッフェとしては取り立ててハイグレードな料理でもないが、ロケーションと007の展示にはお金を払う価値が充分ある。アイガー、メンヒ、ユングフラウはミューレンで見るよりも近く、遠くにはモンブランまで望める。

途中の乗換駅のビルグでは金網や強化プラスチックの上を歩けるスカイウォークもあって楽しい。ミューレンまで来てしまったが十分満喫!

さて、次はシルトホルンの向かいのユングフラウまで行くとするか。

またロープウエイ、バス、電車を乗り継ぎ、グリンデルワルトから一駅のグランドのホステルMountain Hostelまで移動。伊藤はフゥーフゥーとため息をつき、息を喘いでいる。我々のペースでついてくる伊藤は相当疲れているようだ。大丈夫か?

    登山電車はアイガーの麓を走り、アイガーの中へ吸い込まれていく

スイスはアプローチに苦しむ必要がない。アイガーの麓が街である。災害大国日本には考えられない。ホステルマウンテンのチェックインは16時のため、バゲージルームに荷物を置いて、ユングフラウ鉄道で展望台まで登山電車でGO!

新幹線は見るもので乗ったらつまらないと子供の頃は感じていたものだが、登山電車は急勾配を頑張り、急カーブをしなりながら山を走る。その隣をハイカーが歩いて登る。終着駅までアイガーとメンヒの中のトンネルを走る。私が生まれる前に作られたトンネル。使命感に燃えていたであろう、とてつもない偉業だ。

 メンヒ

 ユングフラウ

ついさっきまで向かいのシルトホルンに居たのに、もうユングフラウ展望台の標高3571m。ここまで電車で来られたらならメンヒもユングフラウもワンデイ登山の範囲!展望台の外ではジップライン、ソリ、スキー、ボード、いろんなスノーレジャーを楽しんでいる。またスイスに来ることがあるなら、次はこの大雪原を滑走したい。

 

ホステルに戻ったらグリンデルワルドグランド唯一?の駅前レストランへ。生演奏に合わせて地元の年配の夫婦が楽しそうに踊っている。夕闇に落ちていくアイガー北壁がこちらを見ている。

 

2019.0818 チューリッヒ

グリンデルワルトでやりたいことは終わった。街の散策もしたかったが、大荷物を担いで歩くことはしたくない。チューリッヒへ移動する。スイスの電車は正確と聞いていたが、到着が遅れ、乗り継ぎ時間が短く慌てて乗ったら、隣の席のおじさんが

英語喋れる?

ちょっとは。(ちょっとって言ってしまったがほぼ分からない)

どこいくの?(どこから来たのと言われたかと一瞬迷った)

ベルンへ。(日本から来たといわなくて良かった)

この電車はベルンと反対へいく。間違えているよ!(ここまでくると魂の会話w)

大慌てで隣のホームへ走った!ちゃんと英語がわからなくても何故か分かるって不思議。

こうやってスイスでは乗り鉄を楽しんでいる。

よくわからない街の中で頼りになるのはGoogleマップ。斉藤と2人で検索しながら、迷いながら、右往左往しながら、チューリッヒのホテルにチェックイン後、軽く喉とお腹を満たしつつ休憩してからトラムに乗り、シャガールのステンドグラスが施されたFraumuenster(フラウミュンスター)聖母聖堂へ。シャガールの青は本当に美しく、天地創世のバラ窓に見惚れてしまった。プロテスタント教会であるフラウミュンスターは質実堅実。華美でもなく聖書の言葉を語るような建築様式で気持ちがいい。

夜はホテル近くのイタリアレストランでスイスのラストディナー。名残惜しくバーで呑み仕上げていたら突然の雷雨。もう雨が降っても雷でもいいよ!本当に天気には恵まれた。

 

 

2019.08.19 香港

我々の長かった旅もトランジット香港を残すのみとなった。19日にチューリッヒを発ち20日に香港上陸。トランジット4時間のチケットも取れたが、わざわざ9時間あけたのは最後に胃袋と身体を癒すミッションを追加したからだ。尖沙咀まで電車でお出かけして飲茶&マッサージで心身ともにリフレッシュしてから帰路へつく。

 

2019.08.20 セントレア

ひとつのプロジェクトに対して、長く積み上げてきたが、目標は達成できなかった。しかし、生きることにおいて決して無駄ではない。結果ではない価値があったと思いたい。

多くの仲間のサポート、家族の協力によりトライすることができたマッターホルン山行。

マッターホルン登攀中も同じガイドレスパーティと同じ時間を共有できたのは感慨深い。

ヘルンリヒュッテから仲良くなった中国系アメリカ人、懸垂ロープを抜いてくれたり、ルートを教えたりしたイタリア人、登るときに優しく手を差し出すスペイン人、真夜中に満月が眩しいと思ったらヘッデンをこちらに向けて覗きこんでいた下山中のファンキーなアメリカ人。少しずつの関わりがとても思い出深い。

みんな途中断念、24時間以上行動。ガイドレスがいかに難しいかを語っている。

連れて行ってもらったではない我々だけのアルパイン。

ああすれば良かった、こうすれば良かったなど、何も特筆することはない。

これが自分達の実力だ。

やっと終わった。

さぁ、家に帰ろう。

 

記:馬場敏子

 

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