【1】マッターホルン ヘルンリ稜 2019.08.10-2019.08.20
CL:斉藤/記録:馬場/同行:伊藤
2019.08.10 セントレア
マッターホルンに行きたいと決めてから9カ月、本当に行くと決めてから長くて短い7カ月。ついにフライトの日が来た。
2年近く前に、スイスの槍ヶ岳に登ろうと、斉藤からオファーがあり、すぐに調べてみたら下山出来ずに凍えながら悲惨なビバークしているパーティの動画が最初にヒットした。
寒いのは苦手で嫌や!それよりもマウントクックでスキーをしたい、他にもやりたいことがあったから断った。それから1年ほど経ち、何となくネットでマッターホルンを調べてみたら、自分達がピークに立っているビジョンが見えた。いざ行かん、マッターホルンへ!
マッターホルンを登るために足りないことは?
体力・アイゼンワーク・雪壁・高所順応・コンテ技術。
まずは八ヶ岳アイスクライミングからジョーゴ沢・峰ノ松目沢・裏同心ルンゼ、八ヶ岳大同心稜、稲子岳南壁左カンテ、霞沢岳、五竜岳、コブ尾根、前穂北尾根、雪と岩のアイゼンワークと雪壁登攀。
体力作りは甲斐駒ヶ岳黒戸尾根ワンデイピストン、奥穂高岳~前穂高岳、常念岳〜蝶ヶ岳ワンデイ。
高所順応で富士山吉田口馬返し、富士宮、低酸素室。
御在所でコンテやフリーソロ。斉藤が行けない日も一人でトレーニングを続けた。
斉藤と2人で励ましあい罵り合いながらマッターホルンへのトレーニングを着々と進めてはきたつもりだったが、やれることはやり尽くせなかった。登頂達成の裏付けにもならない、確証もない、まだまだ出来ることはある、もっとできたはずと思えてならなかった。梅雨後半の長雨で予定していたトレーニングの仕上げと確認ができず、最後にやれることは怪我と病気にならないことだけとなった。
装備
富士山より700m高いだけ。標高差1200m。岩としてのグレードは高くない。アルパインとしても。あの美しい頂に楽しく登って嬉々として立っているのではないか?いやいや、山をナメたらアカン。年間100人もの命を奪う山だ。高所順応せずにボーっとして滑落、落石にあたる、何があるかわからない。
期待と緊張と不安。
オンサイトトライ。
今はチューリッヒに向かう飛行機の中。心は平坦を取り戻した。成すべきことをやるだけ。旅を楽しむ。まもなくチューリッヒ空港に降り立つ。
2019.0811 ツェルマット
チューリッヒに到着。あたりはガスっていてすっきりしない。いま、天気が悪くてもアタック当日さえ良ければいい。入国審査を終えて荷物をピックアップ後、ハーフフェアカードを購入してツェルマット行きの電車に乗る。空は白から青となり、トゥーン湖が近くなるとベルナーオーバーラントの山々が見えてテンションがあがる。クライマーなら登りたくなるような岩壁迫るそばの線路を走り抜け、遥々マッターホルンの麓、ツェルマットに到着。
アルプホルン隊が演奏する駅に降りたつと、辺りは観光客に溢れ、建物の窓にはスイスらしい赤い花が咲き誇っている。山が近い、色が違う、異国の地。ウキウキとそのままスイス初ランチに行きたい気分になるのを抑え、まずはHotel Cimaにチェックイン。
激安ホテル予約は1泊1人3,134円なのにマッターホルンビュー。確かにボロところもあるが、こじんまりしていてロケーション最高!
早速、街の散策と記念すべき初日ランチへ!メインストリートのバーンホーフ通りにあるRestaurant Walliserkanneでチーズフォンデュにラムステーキにビールにワインで値段も気にせず豪勢に前祝い。
メインストリートではスイスの伝統的な音楽祭パレードが催されおり、我々の前途を華やかに導いてくれていると都合良く思っておこう!
大事なことは現地情報。アルパインセンターで天気やマッターホルンの最近の情報収集へ行ったが、ガイドを雇いなさいとしか言われずに何も得るものがなかった。ロープウエイ駅の場所と時間を確認して、お買い物をしながらホテルへ帰る。遅い時間にランチを食べすぎたため夕飯抜き。時差ボケが残る斉藤は3秒で寝たようだ。コネクティングルームの伊藤も早々に就寝した。ベランダに出て駅前スーパーCOOPで買ったブルーベリーとカフェラテを飲み、ガスのかかってしまったマッターホルンを心の目で見ながら眠くなる時を待った。そして、明日は雨でもいいから、せめてマッターホルングレッシャーパラダイスまでいけますようにと願った。
2019.08.12 ブライトホルン
5時起床。8/12は予報通りの雨につき早朝からロープウエイに向かう人は居ない。我々だけがトボトボとシトシト降る雨の中を歩く。
ブライトホルン登山は諦め、高所順応だけのつもりでロープウエイを乗り継いできたが、Trockener Stegで運休足止めとなった。
マッターホルングレッシャーパラダイスへの運転再開まで、ふんわりとした時間を過ごす物好きなクライマー達が10名ほど。そして、ザックからギターを取り出し、奏で、歌う。
雨足は強く、雷が鳴るのも気にならないほどギターの音色が心地いい。
いつ動くか分からない。
だから、カフェタイムにする。
焦らない、自由な時間。
雨があがったように見えてので、カフェのテラスに出てみると雨粒が下から上に吹き上げて顔に当たって痛い!寒い!そそくさとカフェに戻る。
結局、ケーキを食べてゴンドラ下山後、ツェルマットのスーパーで買い出しをしてベランダでまったり女子会ランチ&ディナー。今日もマッターホルンは見えず仕舞い。明日は晴れの予報。朝からきっとゴールデンマッターホルンが拝めるはず!
2018.08.13 ヘルンリヒュッテ
日の出の6時過ぎに我慢しきれずに起きて窓から外を見る。ゴールデンマッターホルンどころか、朝からガスの中。恥ずかしがらないで出ておいで!いまだ全貌を見る事叶わず。
我々の初陣基地ホテルは現金決済限定なので、チェックアウトを伊藤に任せたが、予約では一泊3,134円なのに一泊50スイスフランも払ってきてしまう。
それを聞いたのはホテルを出たあとだったので、もう今さら戻れない。トラブルも旅の一つだと諦める。
いよいよアルパイン女子登山部のマッターホルンへ第一歩を踏み出す。
8時にゴンドラに乗り、シュバルツゼーで降りて、そこから楽しいハイキング。
シュバルツゼー湖のほとりにはチャペルがあるが、安全と登頂は神頼みしない。スイス国旗のポーズをしたり、歌を歌ってみたり、写真を撮ったりアルパイン女子登山部らしく。
昨日、ブライトホルンで高所順応が出来なかったので、ゆっくり、ゆっくり登る。休憩いれて3時間たってヘルンリヒュッテに到着。
思った以上に体が冷えた。ヒュッテに入ってホットチョコレートをオーダーしたらホットミルクとチョコレートの粉パックが出てきた。冷たかった耳がジンジンと熱くなってきた。ひと休みしたら、装備をつけて偵察へ出る。
メニューの表にはルート図
ヒュッテから5分程度で垂直の壁にフィクスロープが垂れ下がった取り付きである。この記念すべき、第一歩を斉藤が「登って」と言うので「いいの?」と、喜んで先に足を踏み入らせてもらった。
取り付き
取付きのフィクスロープの第一歩は悪い!鉄梯子もついてあるが、非常に登りにくい。パンプするかと思った。ルートは分かりにくく踏み跡だらけ。年によってルートが変わるとも聞いた事がある。コンテなしで200mほど登って、ルートのチェックをしていたら雪がチラついてきたので戻った。
ヘルンリヒュッテは標高3260mにあるのにホテル並の設備だ。ここまでなら老若男女、犬までもが登ってこられる。3人部屋で三段ベッド、サンダル、シーツ付き、コンセントなし。談話室のようなフリースペースにあるテーブル脇でスマホ充電する。ここでは色んな言語が飛び交っている。