穂高岳屏風岩東壁 雲稜ルート 登攀
2016年9月10日(土)-11(日)
メンバー L馬場(記録):会員外T:会員外S
天候 10日:晴.微風/11日:晴ときどき曇・微風
タイム
10日:さわんど第二駐車場(6:00)-上高地(6:40)-横尾(9:50)(10:40)-岩小屋跡分岐(11:10)-渡渉1ルンゼ(11:25)-T4基部(12:30)-T4登攀開始(13:05)-T4テラス(15:30)-就寝(20:00)
11日:起床(4:30)-雲稜登攀開始(5:35)-登攀終了(12:10)-懸垂開始(12:25)-T4テラス(13:50)-撤収後、懸垂再開(14:00)-T4基部(14:45)-渡渉(15:25)-上高地(18:15)-タクシーで沢渡へ
登攀時間:6時間35分(うち1時間待ち)/懸垂時間:2時間20分
装備:カム(キャメロット)0.3-0.5※必要ない/ヌンチャク9/カラビナ18/スリング18/環付ビナ/あぶみ/フィフィ※未使用/支点用スリング/ハンマー・ハーケン※未使用
横尾を過ぎると左手に見える大きな壁、穂高岳屏風岩。あの壁から見下ろす景色はどんな風なんだろう?様々な歴史を経て多くのクライマーが登攀した穂高岳屏風岩東壁を私も登ってみたい。
山と戯れながら自分と仲間の絵を創造する。スマートであろうが前衛的でなかろうが、泥臭かろうが仲間と一緒に壁という白いキャンバスにクリエイティブな遊びを楽しんできた。
※高気圧ガンバ!
9月に入り秋の空となった。空の女神には微笑んで欲しい。1週間ぐらい前から天気を読みながら自分なりの予想をする。木曜ぐらいまでは土曜日が晴れて日曜は雨の予報だったが、台風のあとであることと天気の移り変わりから日曜日の午前中までは雨は降らないだろうと踏んでいた。金曜の予報天気図を見ているとシベリア気団がおりてきたので秋雨前線もみられるけど、この秋の停滞は長続きしないだろうし日曜にはシベリアからの高気圧で分断されるんじゃないかな。そのため日曜は雨の心配はなくなり、シベリア気団が強くなれば晴れる可能性が高い。と金曜の午前中に判断し、雲稜ルート登攀は土曜日ワンディか日曜に行けるとこまでいって雨の時点で懸垂するなど現地判断を考えていましたが、予定通りに遂行できるはず。
※30Lでパンパンのパッキング
前夜に名古屋を出て足湯のあるさわんど第二駐車場へ0時を越えてから止め、駐車場の端でテントを設営し満点の星の下で軽く前夜祭だ。翌朝5時に起床して撤収してバスターミナルのある第三駐車場まで歩くつもりだったが、隣に居た女性2名とタクシーにて上高地へ移動することにした。4200円割る5人で840円也。上高地(6:40)に発ち、今日はたっぷりと時間があるのでハイキングを楽しむ。徳沢を過ぎ横尾(9:50)に着いてゆっくりと休憩する。お盆のことを思うと人はまばらだ。
※澤君と
澤君にも会ってビリケンさんのようにお腹を触らせてもらいご利益?(笑)を分けてもらう。担ぎあげる水を汲んで、横尾(10:40)に発ってすぐ、T氏の水袋から水がボタボタと漏れ出している。注ぎ口が劣化していたので袋を吊り下げるようにパッキングしなおす。
※水が冷たい
気を取り直して和気藹々と歩き、岩小屋跡分岐(11:10)より渡渉する。最初からタビを穿いてきて上高地に似使わないとS氏にニヤニヤと笑われていたT氏だが、ここは本領発揮でサクサクと渡渉する。水量がなく岩を飛びわたることもできなくはないが、行きで沢ボチャはしたくないのでネオプレーンソックスに私たちは履き替えた。渡渉すぐ目の前にある1ルンゼ(11:25)に入り登りつめればヨレヨレのフィクスロープの残置されたところがT4基部(12:30)となる。
※ブヨがいます
※まもなくT4尾根
T4のオーダーは1PがS氏、2Pが馬場、3P~T氏。ロープを下ろしてガチャとハーネスを装着するが荷物を最小限に割愛してきてもザックはまだまだ重い。早くついても酒が売り切れたら買出しに行けないのでゆっくり登りましょうってことでクライムオン!T4登攀開始(13:05)
※1ピッチ目
1ピッチ目(Ⅳ級 30m)S氏
登りだしは2箇所ある。右側の斜め凹角からフェースを登る。下から次のハーケンは見つけにくいが登れば見つかる。荷物が重いだの、青虫がオニューのズボンに張り付いて取れないだのキャッキャと言いながら登るS氏はとっても楽しそう。
※2ピッチ目
2ピッチ目(Ⅴ-級 40m)馬場
お泊りセットの入ったザックを背負ってⅤ級を登れるか?ちょっと不安だったが、登り始めると気にならなくなった。ハーケン残置を追って登る。やや立っているガバフェースを左へあがり左壁のスリングのあるところを経由して凹角を直上する。フェースをどんつきまで登りすぎてしまい左壁に乗り移るときに四苦八苦する。しかも岩が濡れていていやらしかった。
3ピッチ目(100m)T氏
小石がいっぱい落ちてくるルンゼ~潅木を歩く。アプローチシューズでもOK。 ※4ピッチ目
4ピッチ目(Ⅲ級 40m)T氏
砂と草つきの簡単なフェースを登りチムニーに入る。1.2ピッチ目はグレードよりも低い感覚だったが、それに比べてここがⅢ級とは思えないぐらい厳しい。お助けスリングをつかってⅢ級ならわかるぐらいハングした乗越のあるチムニーだ。チムニーをでて10mほど歩くとT4テラスである。
※常念~大天井~燕岳
T4テラス(15:30)に着き、T氏の力作である改良カマボコドームになったツエルトを張る。ツエルト底も縫い合わせてあり中の居住空間は広い。ビバークどころかテントよりも快適だ。ガチャをまとめて袋に入れて寝られる準備もしたら貸切T4テラスで明日の登攀成功を祈願して宴会だ。夕闇となり1番星がなんとか見える程度の空にうっすらと雲が張り出してきた。明日も晴れたらいいな。就寝(20:00)
※これから重要な会議です。
起床(4:30)から朝食を食べてツエルトを畳み装備をつけている間にT4基部よりコールが聞こえる。他のクライマーが登ってきた。今日は自分達を合わせて2パーティだ。本日の雲稜ルートのオーダーは1PがS氏、2Pが馬場、3PがT氏と取りあえずここまで決めておいた。ラテもいらなくなりすっかり明るくなっので雲稜ルート登攀開始(5:35)
※1ピッチ目
1ピッチ目(Ⅴ級 50m)S氏
ガバフェースを登り、草つきをトラバースして右の凹角に入る。ハーケンがベタ打ちなのでルートファインディングは容易である。小ハングを乗越すところがやや怖いが丁寧にひろっていけばスタンスも多くホールドもガバである。それにしても朝イチから50mは長い。S氏が登っている間に2人のクライマーがT4テラスに着いた。こちらが3人パーティであることにガッカリしていて「遅くなるなぁ」とつぶやかれた。セカンドで馬場が登り、最後にT氏が登ってきた。ピナクルのある狭いテラスがビレイポイント。
※2ピッチ目
2ピッチ目(Ⅴ+級 A0 40m)馬場
ピナクルテラスより一歩でて支点にかけてからのもう一歩が出ない。ホールドもスタンスも甘い。頑張れないことはない。ポイっと乗り込めば次のホールドはガバが見えているが多分にもれず馬場も安全パイをとりA0する。失敗は許されないしスリ傷もしたくない。後ろもつかえてきて気になる。ここさえ終われば細かいけど楽しいクライミング。右上してピナクルから左上するのでロープの流れや屈折に注意。ピナクルのところにあった支点にかけたらロープが流れなくなったのでクライムダウンしてピナクル手前のハーケンに取り直す。左上して扇岩テラスの右側より入る。全員が扇岩に入ったところで後続のパーティに先をゆずる。しかし、こちらが再登するまで1時間ほど待った。
※3ピッチ目
3ピッチ目(5.11+ A1 35m)T氏
見事なまでのまっすぐなルート。ハーケンが短い間隔で打ってある。すぐ左にはペツルのフリールートがある。支点間が短いこと、ルートがまっすぐなこと、ホールド、スタンスも少しはあるのであぶみ1つと長ヌンチャクでA0すれば登れそうだが、使える道具は使います。フィフィーは必要なかった。小ハング下の大レッジがビレイポイント。
※4ピッチ目
4ピッチ目(5.10- A0 10m)馬場
噂の岩がパカパカしている悪いルート。出だしの足ホールドもカチ程度である。全体的に崩壊気味なのでいつ何が崩れるかわからない怖さがある。2歩登ってクリップして諸々の岩を叩いて次のホールドを確かめるがどの岩もパカパカと軽い音がする。乗せたい足はザラザラと乗ったら崩れそうなのでそっと体重をかける。乗越はハングしてありはがれそうな岩を引いて登りたいがバクチは打てないのでA0です。乗りあがると腰をかがめてトラバースが悪い。テラスに出てピッチを切る。
※5ピッチ目
5ピッチ目(Ⅲ~Ⅳ級 30m)S氏
右に少し出て草つきのルンゼ状スラブを左上する。テラスでビレイポイント。
※6ピッチ目
6ピッチ目(Ⅴ+級 40m)馬場
ハーケンがベタ打ちの濡れたクラック。そのうえ砂が手足につくので悪い。それでもガバクラックなので慎重に登る。ハーケンもたくさんあり、一歩上がれば支点が作れるので怖くない。クラックからスラブへの移行が濡れてなかったらよかったのにと下にいる緊張感のない話題をしている二人を尻目にして登った。スラブは乾いてはいたがホールドが甘く、足をしっかり岩に食いつかせないとズレたら怖いな。クラックもカムは必要なかったが弾切れ寸前となりカムはランニングのためビナとして使う。懸垂支点であろう残置ビナがある場所より1つ上の終了点まで登る。
※7ピッチ目
7ピッチ目(Ⅳ級 30m)S氏
最終ピッチは草つきスラブ。草を避けないとホールドが見えない。S氏が懸垂支点があると上からコールしているのに、もっと上が終了点のはず!とT氏に騙され(笑)懸垂支点よりさらに10m以上登っても錆びたリングやスリングしか残っていなくて、懸垂地点まで悪い支点で懸垂を強いられるS氏。登攀終了(12:10)
※最終7ピッチ目の懸垂支点。捨て縄で補強しました。
※長い懸垂
懸垂開始(12:25)する。S氏の仕事が早い。さすが大手に勤める仕事ができる女は違う。さっさと降りて次の懸垂の準備をして段取りがいい。扇岩テラスまで3ピッチ。扇岩に降りるよりそのまま斜めに大テラスまで懸垂したほうがよかった。扇岩からビバークできそうな大テラスまで懸垂して、T4テラスまで懸垂。
※大テラスから扇岩を見る
※また眉間をブヨにかまれた。今年はブヨが多い!
T4テラス(13:50)に着いて撤収をしてT4テラスから少し降りた場所より懸垂再開(14:00)T4基部(14:45)につきロープを束ねて下山開始。ここまできたら時間は読める。もう最終バス18時には間に合わない。横尾から小走りすれば間に合う。ルンゼを下りて渡渉(15:25)だ。バスには間に合わないが最終タクシーの時間は行きのタクシーで確認しておいた。上高地発18時45分なら19時に締まるゲートに間に合うそうだ。横尾についてトイレだけ借りて澤君には声をかけず宿泊登山者が横尾、徳沢へポツポツと向かう中を逆走して上高地へサクサクと足を速める。電波が入るところでタクシーの予約を入れる。暗くなり始めた上高地(18:15)について予約してあったタクシーへ乗り穂高をあとにした。
※遊んでくれた屏風岩をバックに
※秋のつるべ落とし
いつかは登りたい屏風岩!登りたい!登りたい!といい続けていたらチャンスは勝手にやってくる。いいパートナーに恵まれ、いい天気にもいい季節にも恵まれて幸せものだ。
こうやって長々と報告を書いているのも自分の作品として残していきたいことと、データとして覚えておきたいこと、1回登ってああ面白かったで終わるのではなく次に誰かが登りたいと言ったときにつなげていけたらいいなと思う。