メンバー:L福島(記録)・粂野

タイム:中尾高原口バス停Ⓟ(4:00)・・・錫杖沢出合い(5:30)・・・左方カンテ取り付き(6:30~7:00)・・・終了点(13:30)・・・下降点(14:00)・・・錫杖沢出合い(16:00)・・・中尾高原口バス停Ⓟ(17:00)

 今季初、錫杖前衛壁はやはり『左方カンテ』から。粂野さんは左方カンテ初。自分は4度目の左方カンテとなる。時間があれば左方カンテの懸垂の下降点にある『注文の多い料理店』も触ろうと計画立案する。前夜発で中尾高原バス停Ⓟに22:30頃到着し、21日3:15起床。4:00に予定通り出発する。天候は梅雨時のため低気圧と前線が入っており大気の状態が不安定だが、どうにか今日1日はもちそうだと思っていた。左方カンテに行く前に、左方カンテ下降点に荷物をデポして取り付きに向かう。1~2ピッチ目を繋げるという情報が事前にあり、今日はそれを試そうと福島リードでスタート。

〇1ピッチ目:福島(Ⅲ)→Ⅲ級の1ピッチ目の終了点を越えてそのままⅣ級の2ピッチ目につなぐ。途中2ピッチ目のカンテに出る乗越手前でロープ残り10mのコールがあり、3ピッチ目までロープが足りないと判断。少しクライムダウンしピッチを切る。

〇2ピッチ目:粂野(Ⅳ)→2ピッチ目途中から3ピッチ目まで。ピナクルまで問題なくスルスルと登る。

〇3ピッチ目:粂野(Ⅴ)→3ピッチ目、自分は2度リードしたことがあるため引き続き粂野さんリード。核心は右だと何度も言ったのに、左から行ってしまう。15m程で終了するピッチなのにどんどんロープが出ていき、40mロープが伸びる。?と思い登ってみて納得。終了点を越えて、チムニー方面ではなくリッジにロープが伸びている。間違っていることを伝え、なんだか面白そうなので自分も行ってみることにした。ガバもあり、カンテっぽいところもありで登りやすくⅣ級マイナス程度。上まで行くと木にスリングがかかっていて、間違えた人は1人じゃない感じだ。正面にそびえる逆層の壁。ここを越えれば5ピッチ目の途中に出られそうだが、残置のヌンチャクを見ても越えられそうにないと判断し、懸垂で3ピッチ目の終了点に戻る。核心を巻いてしまったのでもう一度3ピッチ目をやり直すことにする。後続パーティがおり、それを待って懸垂で1ピッチ戻る。今度はきちんと核心を越えて3ピッチ目終了。そのまま少しロープを伸ばしてチムニー直下に歩く。

〇4ピッチ目:粂野(Ⅳ+)→ベチャベチャのチムニーを登って15m程で終了。

〇5ピッチ目:福島(Ⅳ+)→手も足も豊富にあるが、支点が下部であまり取れないフェースを、何度も登っているのに相変わらずこわごわ登ってカンテに出る。

〇6ピッチ目:粂野(Ⅴ+)→昨年まであった木がボキッと折れている。初めてここをリードした時、この木には本当にお世話になった。粂野さんは最初左からフリーで抜けようとするが諦め、チムニーから抜ける。自分はフォローなので左からフリーで抜ける。でも、前回登れたムーブを思い出すまで時間がかかり、2回ほどテンションをかけた。次に登れなかったらチムニーから行こうと思っていたが、上の三角のカチの事を思い出して、もう一度トライしたらノーテンで抜けられた。後続がいないので焦らず考えられて良かった。

 

 6ピッチ目の終了点からもう1ピッチ、あまり登られていないスラブを登れば上に抜けられるが、粂野さんお腹いっぱいとなったため、懸垂で下りることにする。前のパーティは上まで抜けた様子。懸垂2ピッチ目でロープ末端の結び目をほどき忘れてロープを上げる痛恨のミス。でも、もう1パーティ上にいたのを思い出し、イチかバチか上にロープを上げて反応を待つ。もしもダメならロープ1本で注文のルートを登り返そうと思っていたが、上のパーティがすぐに気付いてロープの結び目をほどいてくれた。

 下降点に足が地に付く15m程手前で雨が降ってきた。その後雨はどんどん激しくなり、粂野さんが降りる頃にはザアザア降りになる。急いでロープ撤収。雷も鳴り始める。1本は出せる状態でロープはたたんであったので、もう1本はロープをたたむのは後にしてこの場を離れなければと思い、粂野さんが靴を履いている間にロープもギアも荷物をとりあえず全部ザックに詰め込んだ。雨脚は強くなり、大きな粒の雹?アラレ?まで降り始める。雨粒が何せデカい!ゲリラ豪雨初体験!そう思って上を見上げると、上から水がこちらに向かってすごい勢いで押し寄せてくるのが見えた。後から分かったことだが、上の雪渓がゲリラ豪雨で崩壊し、せき止められていた水が一気にこちらに向かって流れてきていた。粂野さんは靴を履いていて気づかない。体が反射的に動くと同時に粂野さんを呼んだ。粂野さんもすぐに反応して靴紐も結ばず右側の草付きに2人で退避。振り返るとさっきまでいた所は急流になっていた。見れば一抱えもある岩が普通にガラガラ言いながら水と一緒に流れていった。とりあえず安定した場所を探してそこで待機。だが対岸に渡らなければ帰れない。大きな急流は滝のようで渡れそうになかった。今日はここでビバークかなと覚悟する。携帯の電波が入ったので天気図チェック。赤い雨雲が錫杖にかかっていたが他に目立った雲はない。30分ほど待機していると、雷は時々ゴロゴロ鳴るが、雨も少し小降りになった。さっきまで滝のように流れていた水量がかなり減り、どうにか渡れそうだったので慎重に対岸に渡る。その後、渡渉が2回あることが分かっているので油断せず、ハーネスは付けたまま休憩せずゆっくり下山を開始する。靴は最初に水が来て逃げた時に2人ともすでにベッチャベチャ。帰りの2回の渡渉も無事終わってようやく自分も粂野さんもホッとした。雨の中、駐車場に全身ズブ濡れで無事下山する。ゆっくり装備を片付けていると、後続パーティも下山してきたのでロープのお礼を言い、ゲリラ豪雨の凄まじさを語りあい、お互い無事の下山をねぎらった。その後、駐車場から一番近い、うまい棒無料の温泉に入り帰名する。

 今回本当にいろいろあったが、山の表情が一瞬で変わるのを目のあたりにしたこの体験を、自分も粂野さんも今後忘れることはないだろう。

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