遠征期間:2019年8月11日~19日

アメリカ Mt.Rainier(マウント レーニア)

メンバー:L田中、太田(記録)

20年近く前に留学していた、アメリカ ワシントン州にある「タコマ富士」ことマウント レーニア4392mに登ろうと、遠征を企画した。

※Mt. Rainierの Disappointment Cleaverルートは氷河帯の4000m級ではあるものの、よく整備されている初心者向けコース。あまり日本語の記録は出ていないので、次に行きたい人向けに手続きも含めて詳しく書きます。

8月9日(金)

台湾経由で出発だったはずが、台風9号の影響で日本→台湾便が欠航。実質振替不可という航空会社の対応に怒り心頭だったが、気を取り直して飛行機、ホテル、キャンプ許可、レンタカー、保険、Wifiなどを手配しなおし/変更手配し、2日後の11日(日)に出発できることになった。繁忙期に航空券取り直したため、だいぶ高上りになったが、ある程度、旅行保険で返ってきそうなのが救いだ。海外生活&旅行会社勤務で得た持論:旅行保険はケチってはいけない。今回は、日山協の山岳保険+普通の旅行保険(HS保険)に加入。普通の旅行保険は、行程に登攀が含まれていると引き受けてもらえない商品もあるので、よく調べる必要がある。

8月11日(日)セントレア→デトロイト→シアトル

2日遅れでやっと出発。レーニアの天気は明日から好転。天気が悪いときに足止めだったので、ある意味、神様が味方してくれている気がする。機内ではアレックス オノルドの「Free Solo」を観ることができ、大盛り上がり。長旅を終え、空港近くの安宿のベッドに入る頃には深夜だった。

遠征荷物。

8月12日(月)シアトル→レーニア国立公園 Paradise(パラダイス登山口)-Camp Muir(キャンプ ミュア)

Paradise(1652m) 9:12-Pebble Creek11:04(20分休憩)ここから雪渓ーCamp Muir(3078m) 15:18 就寝19:30、22:00起床-23:30 Campu Muir出発

5時に空港でレンタカーを借り、出発。レンタカーと分かると車上狙いの危険が増えるため、日本の「わ」ナンバーのような区別はない。選択肢があれば、現地ナンバーを選ぶのが旅行者と分からずベター。ちなみに、シアトルからカナダに車で行く人も多いが、レンタカー会社にその旨伝えておかないと、保険がカナダできかない(申告さえすれば、追加費用なし)。

ワシントン ナンバーがなかったので、思い切ってフロリダを選んでみる。

シアトルへの通勤ラッシュは5時から9時。すでに反対車線では渋滞が始まっているが、我々は逆方向。レンタカーはカーナビ付きにすると高くなるので、スマホのGoogle Mapを使う予定としていたが、Ashfordから先、Paradise付近は携帯の電波が入らないので、事前にオフラインで使えるように、地図をダウンロードしておくことをお勧めします。国立公園入園料$30を払い、7:30、Paradiseに到着。夏場はすぐに駐車場が埋まってしまうので、要注意。

Paradiseからみるレーニア。気温15℃

キャンプ許可は、10時までにもらわないと、予約していても無効になってしまう。(キャンプ許可は70%が予約制、残りが早いもの勝ちで、夏場はすぐに埋まってしまうため、3月にWeb受付が始まったらすぐに予約したほうが良い。1パーティー20ドル。登山許可はMuirから上に行く場合に必要で、登山日までにオンラインで支払う。1人50ドル。)Paradise Wilderness Information Centerで登山届を出して許可証もらうはずだが、どの建物か分からず、ウロウロ。Guide Serviceと書かれた建物が開いており、入ってみたらそこにレンジャーさんが居た。

Guide Serviceと書かれた建物にて受付

先客はレーニア5回目という67歳のアメリカ人2人組パーティー。レンジャーさんに山の状況を確認していた。繁忙期だがMuirには今は6パーティーしか上がっておらず静か、事故の状況については、他のルートでは何件かケガで救助が出たが、Disappointment Cleaverは今シーズン事故はゼロ、病気の方が1人いたのみだ、とのことだった。私たちも受付をし、登山許可証を下山後に返さないと捜索が開始され、250ドルの罰金を取られること(本当に遭難していた場合の捜索費用は無料)、廊下に「ブルーバッグ」が置いてあるので必ず何枚か持っていき、雪上でキジ打ちをしたら犬の散歩の要領で回収して、Camp Muirの捨場に入れること、など説明を受けて終了。

トイレキット。左には下山ポスト

パッキングをし、車を長期滞在者用の駐車場に移して9:12、出発。しばらくはSkyline Trailというハイキングコースを行く。高山植物が咲き乱れ、楽しみにしていたマーモットやリスも次々に出てくるので、一日中ここに居たい思いだった。

花を食べるマーモット

のんびり景色を楽しみながら歩いていると、後ろからガイド登山の団体がやってきた。ガイド付きの人たちは専用の小屋に泊まれるため、テント泊よりも装備が軽いが、それにしても結構なハイペースで歩いている。抜いてもらうが、ほどなく1人、ガイドに付き添われて下山してきた。漏れ聞こえた会話によると、歩くスピードが速すぎて吐いてしまい、敗退するそうだ。日本のガイドさんは顧客を何とか登頂させようと苦心している感じがするが、こちらは「ついてこられないなら敗退してください」スタイル。それにしても、高いガイド料を払っているだろうに、ハイキングコースで敗退はかわいそうだ…

色鮮やかな高山植物が楽しめるハイキングコース

11:08、Pebble Creekに到着。ここで土のハイキングコースは終わり、Muirまで雪原となる。20分ほど休憩。

Pebble Creek

アイゼンがいる状態でもなく、引き続き日帰りハイキングの人も多くいる。広い針ノ木雪渓のような感じで、だらだら登る。日差しは強いが、気温は長袖Tシャツ1枚でちょうど良いくらいで、快適。13:00、やっと目指すMuirが見えてきた。

Muir Snow Field

途中、1か所小さいクレバスが開いていたが、特段危ない箇所もなく、15:00過ぎにCamp Muirに到着。避難小屋も結構空いており、67歳パーティーはこちらで寝るそうだ。

一般用の避難小屋。25人収容。

テントを張ったり水を作ったりなんだで、あっという間に17:00。クライミング レンジャーが各テントを訪問し、登山許可証を確認、登山の注意点や天気を教えてくれ、質問も受け付けてくれる。今夜は風も弱く、絶好の登山日和。ほとんどのパーティーが深夜0時前後に出発するとのことだ。19:30、就寝するも、周りのテントが騒がしく、なかなか眠れない。

眠れず20時に…。シアトルの夏は21時頃まで明るい。

22時起床。熟睡できたのは1時間程度だろうか。昨日もほとんど寝ていないが、今日は天候が良く登頂のチャンスなので、とりあえずアタックをかけてみることにする。テントから出ると、既に出発しているパーティーが居た。我々はゆっくり準備し、23:30、出発。Muirから先はクレバスがたくさんあるので、コンテで歩く。トレースは明瞭で、道沿いに赤旗が立ててあり、クレバスに入らないように、立ち入り禁止箇所は赤旗がバツになっている。

下山時に撮った写真

しばらくクレバス帯を歩くと、Cathedral Rockに差し掛かる。ここは富士山のような砂礫の岩稜帯。出発時の服装は、下は薄手タイツ・夏ズボン・薄手ダウンパンツ・レインギア。上は冬用ウール長袖、ナノエア、ヤッケ。歩いていると暑くなったので、Cathedral Rock頂上でナノエアを脱ぐ。Cathedral Rockを超えると、再び雪上となり、1:15 Ingraham Flatで小休止。ここはテン場として使われている安全地帯だが、この先の Bowling alley(ボーリング レーンの意味)と言われるトラバースが落石・雪崩の危険地帯で止まることができない。落石・雪崩に巻き込まれるリスクを減らすため、夜に出発しているが、夜でもどこかで落石している音がする。祈りながら一気に通過。

下山時に撮った写真。雪崩と落石の巣窟

Bowling alleyを過ぎて、Disappointment Cleaver下部に取りつく。ここからは、奥穂-北穂間のような岩稜帯。途中でロープもアイゼンも外しているパーティーに抜かされて気が付いたが、単なる岩場なので、コンテをしていることが足かせになっていた。とはいえ、もうだいぶ上まで来てしまったので、このままコンテ・アイゼンで続ける。朝、登山届を出した時に出会った67歳のパーティーにも追い越されるが、彼らの登攀スピードと私たちのスピードはたいして変わらない。田中氏が「海外登山をしていて思うけれど、自分たちの方が技術は上で、登攀スピードはあまり変わらないけれど、欧米人がノンストップなのに対して、日本人は定期的に休憩をするので遅くなる」と言っていた。

8月13日(火)

4:30ハシゴ(3900mくらい)-7:07 クレーター―7:53 4392m最高地点ー9:55ハシゴー13:21 Campu Muir

4:30、3900m地点に設置されているハシゴに差し掛かる。あと400mで山頂だー!と思ったが、ここからが長かった。この辺りから気温が下がり、厚手ダウンを着、ミトン+カイロにするも風も出てきて寒い。そして寝不足の影響が出始め、パワーが出ない。栄養補給も寒すぎてポケットを開けて食べ物を出す気力がない。唯一の楽しみは、1時間に一度くらい見る、流れ星。

ハシゴ

6:30、明るくなり、1時間後に出発したと思われるガイドパーティーにどんどん追い越され、次々に現れる偽ピークに心が折れる。「敗退」という言葉がちらつき始めた頃、67歳パーティーが下山してきて、「あと30分、もう急な所はないから頑張って!You are doing very well!」と励ましてくれた。時間的にはまだ余裕があるので、「焦るな」と自分に言い聞かせ、歩き続ける。

夜が明けて来た

ぞくぞくとガイドパーティーが上がってくる

7:00過ぎ、ついにクレーターに到着!ツエルトをかぶり、水分補給。日が当たっている背中は暖かく、気温も0℃を下回っていないのだが、氷河から吹き付ける風はこんなにも冷たいものか。ガタガタ震える。冬の八ヶ岳さながらだ。最高点はクレーターの対岸にあるので、平らなクレータを渡る。二人とも高山病の症状は一切ないのは良いが、私はとにかくパワー切れ。「2日合計で4時間しか寝てないから、まぁ当然だね。」と田中氏。

クレーター。ここでロープをほどく人が多い

頂上で写真を撮る小道具にしようと、森永乳業のマウントレーニア コーヒーも持っていたが、そんなおふざけができる気温ではなく、さっさと写真を撮って撤退。

何もない山頂。4392m!

最高地点付近は地熱で雪が解けており、蒸気がシューシューしていた。ちなみに山頂には特別何もなく、登山記念ノートが缶に入っているくらいだ。

ノートはいっぱいで書く場所がない。

さて、下山開始。トレース脇はクレバスなものの、ルートは明瞭なので、外さないように淡々と降りるだけなのだが、とにかくスピードが出ない。普段の倍以上かかったと思う。

絶景

ハシゴは1か所だけだった。シーズン終わりになると、クレバスが増え、ハシゴがもっとかかるらしい

途中、Ice Boxの下を通過する箇所がある以外は危険個所は特になく、Disappointment Cleaver の岩場まで、氷河や周辺の景色を楽しみながらのんびり下山。

この氷河が落ちてきたらひとたまりもないなぁ

10:30、Disappointment Cleaver 上部に到着し、休憩。暑い。ダウンやヤッケを脱ぎ、軽装になる。ロープを外し、岩稜帯を下るが、気温が上がり、更にエネルギーが減ってきているので、思うように足が進まない。転がっている岩が全部、人の顔や動物に見え始め、「ゆっくりでもいいから集中!」と自分に言い聞かせる。

Disappointment Cleaver 上部

落石しないように慎重に

火山独特の赤い土

落石・雪崩の危険が高いトラバース地点は昼までには抜けたい。12:00前、最後の力を振り絞り、止まらずに抜ける。

Bowling alley

Ingraham Flatには常設とみられるテントがあり、ガイドバーティ―がいた。

ここでキャンプするのも静かで良いかも。

ここから先はもう安心、と思ったが、Cathedral Rockに差し掛かるところで直径1m以上ある岩が落ちて来た。すぐに身をかわすが、幸い途中で止まってくれた。Cathedral Rock頂上で再度休憩、Camp Muirを眺める。

Cathedral Rockも砂礫だが、赤くはない。

13:30、Camp Muirに戻る。

テント場

トイレをご紹介。トイレットペーパーは各自持参、使用後は赤いバケツへ。

お茶を飲んでとにかく昼寝。久々に良く寝た。ちなみに、Camp Muirから上部はそこそこ携帯はつながるようだが、Wifiは使えなかった。15:00くらいになると、テント場にも人が増えてきたが、昨日と違い、みな静かだ。夕方に近づくにとれて、風が強まり、テント内も冷えた。国立公園が提供している情報にMuirは風が強いと書かれていたので、「これか」と納得。現地のガイド会社REIの装備表も厳冬期装備になっており、出発前は「気温は0℃~7℃くらいなのに、えらく重装備だ」と懐疑的だったが、日本の夏山とは全くちがう氷河から吹き降ろす強風の冷たさに、過剰装備ではないことを実感した。

8月14日(水)

6時ころ目が覚め、ダラダラしていると、何パーティーか下山してきた。あまりに早すぎるので、「頂上踏めた?」と聞いたら「No、また次回だね」とのことだった。ベースキャンプであの強風では、厳しい登山だっただろう。アメリカ人パーティーの中に、テムレスをしている人がいたので、「それ、どこで買ったの?」と聞いたら「Amazon!日本のだよね?いい製品だね。」とのコメント。テムレスは知らぬ間に世界に広まっていた。

良い天気だけれど風が強い!

ゆっくり片づけをし、8:30下山開始。急ぐ理由もないのでのんびり歩く。尻セードで降りていく人たちも多い。

天気に恵まれて本当に良かった!

最後の滑り台

11:10 Pebble Creekに到着。アイゼンを洗って干す。

キンイロジリス。これは食べられないよ。

田中氏は水を補給。雪や渓流には食中毒を引き起こすバクテリアがいるため、必ずフィルターを通す必要がある。1時間ほどのんびりしてから、下山を再開。

アメリカ人はフィルターの代わりにSteriPen (UVライトペン)を使っている人も多い

色とりどりの花や時折出てくるキンイロジリスやマーモットが再び目を楽しませてくれる。

後ろの氷河からはドカドカ落氷、落石の音

日向ぼっこ中のマーモット

途中、「過去9年、Muirに泊まりに来ているけれど、今年が最後かも」という年配の女性から、「さっき熊がいた」と教わり、警戒して進むが、もういなかった。14:00前、Guide Serviceの建物に着き、許可証を返却。駐車場はたくさんの観光客で大混雑だった。

許可証。無事に戻って来ました。

帰り際にマウントレーニアが映る池として有名なReflection Lakeに車で寄るが、ガスってしまい何も見えなかった。

あれ?山どこ?

明日はハイキングに行こうとTacoma在住の友人と約束していたので、Tacomaの安宿を予約。レーニア国立公園内にはたくさんキャンプ場があるが、どこもシャワーが無いのが難点だ。おなかが空いたので、とりあえず「アメリカを感じたい」という田中氏の要求を満足させるべく、友人おすすめのBlazing Onionというハンバーガー店に向かう。

栄養補給だ!チップは飲食代の10~25%払うのが普通です。

好日山荘のような登山チェーン店REIも近くにあることが分かったので、試しに帰りに寄ってみるが、特段安いとか、面白いものはなかった。

REI。オリジナル商品もたくさんある。

明らかに問題がありそうな人がたくさん泊っている安宿($80)で、シャワー、洗濯をし、ワシントン州の岩場を網羅したガイドブックを眺めているうちに寝落ちした。