1999年 スイスアルプス
吉村 賢/奥山亜紀
アイガー・ミッテルレギ山稜
期日:1999年7月5~6日
メンバー:L.吉村賢、芳野達郎、奥山亜紀
7月5日 晴れ風強し、グリンデルワルト7.19~アイスメーア駅8.40~9.00~ミッテルレギ山稜稜線12.00~ビバークサイト16.20
キャンプ場を6.30に出発、冨田は体調を崩し3人のパーティーになった。アイスメーア駅に着き、氷河に出るトンネルから外に出ると風が強く寒い。雪は思ったほど締まっておらず柔らかい。遠くにミッテルレギ小屋が見えた。
わずかな踏み跡を頼りに9時出発。岩のバンドを歩き、大きく崩れた個所の手前から雪面を直上、顕著な稜線に出た。風が強い。少し迷ったが、登ることにして、芳野がトップで登り出す。所々フィックスロープに助けられ、5ピッチ程登り、太いロープに手指が疲れたと吉村に交代した。岩溝と岩稜の組み合わせで、稜線上には少しの雪、岩の雪は殆ど無くなっていた。
雪がちらつき、雷が大きな音を響かせ始めたので雲行きを見守ることにした。小屋まで下ることも出来たが、明日の予定を考慮して平な岩盤を見つけツエルトを被り、ビバークと決め込む。
17時と18時にグリンデルワルドのキャンプ場にいる富田と交信すると、「明日天気が悪くなることはあっても、良くなることはない」とのことだった。ビバークは風が強く、ツエルトが破れるのではないかと心配した。
7月6日 霧後雨、ビバークサイト4.45~アイスメーア駅9.25~ユングフラウヨッホ駅10.30~グリンデルワルド駅15.00
3時に起床、風強く午後はもっと荒れると判断、下山に決定。稜線伝いの戻り、途中懸垂下降を4回、昨日急登した雪面をスタカットで下り、トラバース道を辿り、9.30アイスメーア駅に着いた。ユングフラウヨッホ駅まで上がり、駅の食堂で冨田と待ち合わせ4人で食事をした後グリンデルワルドへ向かった。
(吉村)
マッターホルン・ヘルンリ稜
期日:7月9日~12日
メンバー:吉村、奥山
7月9日 晴 ツエルマット・ゴンドラ駅7:40~シュバルツゼー駅8:25~ヘルンリ小屋10:30~11:30~3,800m付近ビバーク19:30
どんな事をしてもマッターホルンだけは頂上に立ちたい。今朝は青空、キャンプ場からはマッターホルンが見事に拝めた。ロープウェイを乗り換えてシュバルツゼー駅2,585mから、目の前に見えるヘルンリ小屋まで2時間歩く。今日中にはソルベイ小屋に行けるだろうと思ったが、それがまさか・・・の展開になる。
小屋の裏側から登って岩場にぶつかり登攀具を身に付け、最初15mほどチムニーとスラブをフィックスロープに沿って斜めに登りはじめる。岩峰を巻いた先でルートみつからず、1時間ほどロス。結局雪の斜面を、アイゼンを付けてトラバース。男性2人パーティーが下って来てルートファインディングが「ディフィカルト」といっているらしい。
ガレ場のトラバースでザイルを出し、ここからつるべで登る。午前中までの天気とは一変してガスが出てきた。岩稜が果てしなく続き、行けども行けどもソルベイ小屋が見えてこない。東壁を水平に50mほどトラバースしてから上へ登って行くと小さな稜線に出た。反対側は切れ落ちており、おそらくエンゼルトリッジ稜ではないか。岩稜を左から左からと巻いてツルムの下に着いた。ソルベイ小屋に着く目途が立たず、ツルム下でビバーク。食糧は一泊分しかなく、ガス燃料も少ない。雪が降り出し、明日の天気と、リーダーの「下山」指示が出ないことを祈る。
7月10日 曇時々晴 出発5:15~ソルベイ小屋8:15~頂上16:20~4,200m付近ビバーク20:00
寒く、早く目覚めた。外は相変わらずガス。ツルム左側の雪面を左上。かなり凍っていいて、1mほど落ちたりした。8mほどのモズレイ・スラブを直登してソルベイ小屋のテラスに出た。ソルベイ小屋は小さく6畳位のきれいな建物でトイレもあり、毛布、無線機もある。「ヘルンリ小屋からソルベイ小屋まで4時間以上を要したら即下山」と資料にはあるが、一日かかった。
左上しながら登るとフィックスロープが現れ、ここを登ってもまだまだフィックスのある岩場が続く。赤い岩場を登りきると雪をかぶったガラ場に出た。頂上はガスで見えない。私の体力は限界に達していた。ペースが上がらないが、遂にスイス側の頂上に立った。
天気も体力も余裕はなく、5分滞在して即下山開始。少しでも早く下山しなければと思いながらペース上がらず、ソルベイ小屋にたどり着けず、ビバーク。雪が降り出し、寒く、狭く、空腹の厳しいビバークになった。
7月11日 曇 出発5:15~ソルベイ小屋7:30~ヘルンリ小屋19:30
ガスの中、明るくなるのを待って下山開始。ソルベイ小屋直前の堅く凍った雪面でまたしても落ちた。ソルベイ小屋で空腹を少しだけ満たした。頭の中は登頂の喜びなどなく、とにかく早くヘルンリ小屋まで下りたかった。
途中アイゼンバンドが切れ、片方だけ着けたままで下りた。集中力が無くなりつつあるのを感じ、懸垂前の確認を慎重に行った。ヘルンリ小屋が見えてきて、まだ終わってないのに涙が溢れて来た。最後の懸垂下降を終えて足が着いた瞬間、この時初めて登頂の喜びを実感できた。ヘルンリ小屋で温かい食事とベットをGETした。
7月12日 晴のち曇 出発10:00~シュバルツゼー12:00~13:00~ツエルマットキャンプ場14:30
ゆっくり朝食後、長椅子に座ってマッターホルンを眺めながら少しだけ余韻に浸った。暫くしてガスがかかり始め、マッターホルンを見る最後となった。両足を引き摺りながら無残な格好でツエルマットへ帰った。
(奥山)